さて、今回は様々な年代のソプラノ・サックスの演奏を聴いてみましょう。
※私の趣味志向がもちろん入っていますのであしからず。
まずは管楽器の音域表をみてみましょう。
ソプラノサックスの基本音域はオーボエとほぼ同じくらいですね。ソプラノというだけあって、高音域を担当する楽器です。
では順を追って紹介していきます。
Sidney Bechet(シドニー・ベシェ)
1897-1959
最も初期のスター・プレーヤーはなんといってもシドニー・ベシェでしょう。ニューオリンズ・ジャズの分野で1920年代から活動。1939年にブルーノート・レコードが設立された年にレコーディングされた「サマータイム」は彼の代表的な録音となり、ブルーノート・レコード初のヒット作となりました。
余談ですが、サックスにおけるビブラートは年代によって流行や特徴があり、20世紀初頭ではクラシック、ジャズ共に波の間隔が短く、細かいビブラートをかけっぱなしで演奏するのが主流でした。
ベシェの特徴的なビブラートは、フルートでのかけかたに近い、喉を使っての息の強弱によるビブラートかと推測されます。(現在は顎、下唇の圧力の強弱によるビブラートがほとんど。)
Steve Lacy(ステーヴ・レイシー)
1934-2004
「生涯ソプラノ・サックス一筋」、という(著名な)奏者は私の知る限りスティーヴ・レイシーぐらいなんじゃないかと。
以前のコラムでも少し触れましたが、ソプラノ・サックスはマウスピースが小さいので音程のコントロールが難しく、長時間演奏していると唇と楽器の重さがかかる右手の負担が大きいのです。
なので、「ずっとソプラノ・サックスを吹いている」というだけでも超人かなと思います。
上記の動画は「Soprano Sax」というタイトルの1958年発表のアルバム。わりとオーソドックスな演奏ですが、60年代以降はどんどんフリー・ジャズの方向へとシフトしていきます。
John Coltrane(ジョン・コルトレーン)
1926-1967
シドニー・ベシェ、スティーブ・レイシーという名プレイヤーを除けばそれほど用いられていなかったソプラノ・サックスの認知度を一気に引き上げたのが、ジャズ界最大の巨人の一人、ジョン・コルトレーン。
1961年に発表された「マイ・フェイバリット・シングス」のヒットにより、以後ソプラノサックスは晴れて「主要なサックスのうちのひとつ」の地位を獲得します。
「マイ・フェイバリット・シングス」はミュージカルの傑作「サウンド・オブ・ミュージック」の中の一曲ですが、コルトレーンは原曲とは全く異なり、まるでアラビアやインドの呪術的な民族音楽のような、別次元の世界観と演奏に仕立てており、コルトレーンの生涯を通してのレパートリーとなりました。
「シャナイ」というインドの民族楽器の音色や雰囲気を意識していると思われ、それプラス、極めて高度なハーモニー、スケールでの即興演奏力とコルトレーンのソプラノの大きな特徴、トリル(半音や全音で2つの音を高速で繰り返す)の組み合わにより、おどろおどろしさだけでなく、シリアスかつ洗練されたサウンドとなっています。
↓たまたま共演の動画を見つけたのでまとめて紹介します↓
Wayne Shorter(ウェイン・ショーター)
1933-
コルトレーンが脱退した後にジャズの帝王マイルス・デイビス・グループに参加したのがウェイン・ショーター。
60年代の「マイルス黄金クインテット」の一員として活躍。その後、ジョー・ザビヌル率いるフュージョン・グループ「ウェザー・リポート」に参加し、幅広いプレイスタイルを確率。ソロ・プロジェクトではよりスピリチュアルでコンテンポラリーなサウンド(基本的には宇宙と交信している系ですが、はまると半端ない)を構築し、今なお現役で活動するジャズ・ジャイアンツの一人。
ショーターはYAMAHAのソプラノを愛用しており、当時ストレート・タイプしかなかったが、特注でネックを曲げた楽器を彼が愛用していたことから、ネックをストレートとカーブドと取り替えられるデタッチャブルのソプラノが誕生し、世界的に普及したという説あり。都市伝説的な。
David Liebman(デイヴ・リーブマン)
1946-
コルトレーンに多大な影響を受けた代表的な「コルトレーン・チルドレン」のデイヴ・リーブマン。
入手できるコルトレーンのレコードは全て手に入れ、耳コピしたんだとか。
教育者としても熱心で、教育活動の為に世界中を飛び回り、教本の多数出版している。現在日本国内で和訳されている教材「サキソフォーン上達法」は必読。線引きは難しいですが、いわゆる中級者以上が学べることが多い教材となっています。
Kenny G(ケニー・G)
1956-
現在、一般的に最も有名なサックス奏者と言えばケニーGでしょう。メロウかつポップで耳あたりの良いスムース・ジャズの第一人者。
ジャズ奏者というよりは、ポップスのボーカリストに近い感じがあり、グラミー賞も受賞しています。
ジャズ奏者からの批判もありますが(売れてるから)、単に好みの問題なのでここではスルー。ライブの映像をみたらバリバリ吹きまくっていますね。めちゃくちゃ上手い。
循環呼吸で「最も長いロングトーンをするサックス奏者(45分47秒)」のギネス記録も持っているそうです笑
Branford Marsalis(ブランフォード・マルサリス)
1960-
父親と兄弟全員がジャズ・ミュージシャンという音楽一家の長男がブランフォード・マルサリス。伝統的なジャズ・スタイルと圧倒的な音楽力で現役最強のサックス奏者と言っても過言ではないでしょう。
ソプラノ・サックスの音色の美しさは定評があり、スティングの「Englishman In New York」でのソプラノ・サックスはブランフォードの演奏。ジュリアード音楽院でクラシックも学んでおり、クラシック・サックスのアルバムもリリースしています。
本多俊之
1957-
日本人プレーヤーでソプラノ・サックスといえばやはり本多俊之氏でしょう。
ソプラノ・サックスらしからぬ太い音でバリバリ吹きまくります。
奏者としてだけでなく、映画、ドラマ、CMの楽曲も多数手がけています。
伊丹十三監督作品「マルサの女」のテーマ曲が代表作。
須川展也
1961-
クラシック・サックスからも紹介しておきましょう。
国内では今よりもはるかにマイナーなジャンルだったクラシック・サックスの知名度を押し上げたスーパー・スター、須川展也氏が、ジャズ・ベースの神様ロン・カーターと共演したアルバムから一曲。
ジャズやポップスよりも雑味の少ない、よりクリアな音色が特徴です。